大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 昭和45年(ワ)756号 判決

原告 博多ナショナル製品販売株式会社

右代表者代表取締役 佐藤多喜男

右訴訟代理人弁護士 佐藤安哉

被告 ナカノ電化サービスこと中野次生

〈ほか三名〉

主文

一、被告等は、原告より別紙約束手形目録記載の約束手形一三通の交付を受けるのと引き換えに、連帯して原告に対し金一九九万七、八二〇円及びこれに対する昭和四五年五月二一日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二、原告その余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は被告等の負担とする。

四、第一項に限り、原告において金二〇万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「原告より別紙約束手形目録記載の約束手形一三通の交付を受けるのと引き換えに」の部分を除く主文第一項同旨及び主文第三項同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因として

一、原告は、ナショナル製品の販売業を営む者であるところ、電気器具販売業を営む被告中野次生に対し、昭和四三年一一月二一日より昭和四五年二月二〇日までの間に、代金毎月二〇日締切同月末払の約で、継続的に代金合計金一、六四五万六、八五五円のナショナル家庭電化製品を売渡し、他の被告三名は被告中野次生の右取引上の債務につき連帯保証を約した。

二、原告は、右代金の内金一、四四五万九、〇三五円の支払を受けたのみであるので、被告等に対し残金一九九万七、八二〇円及びこれに対する本件支払命令送達後である昭和四五年五月二一日以降完済まで商事法定利率による遅延損害金の連帯支払を求めるため本訴に及ぶ。

と述べ、被告等の抗弁に対する答弁として

一、被告等主張の代物弁済の抗弁事実は否認する。昭和四五年五月六日頃被告中野次生より原告に対し同被告の兄訴外中野義幸所有の被告等主張の土地(山林)をもって代物弁済したい旨の申出があったが、原告において調査の結果、右山林の宗像町における固定資産評価額は僅か金四万九、七一四円にすぎず代物弁済の対象となり得ない無価値の物件と判明したので、右申出を拒絶したものであり、原告はその引渡も所有権移転登記も受けたことはない。

二、被告等主張の同時履行の抗弁については、これに関する被告等主張事実は認めるが、被告等主張の金額五〇万円の手形二通は昭和四五年二月一八日までに被告次生に返還したので、原告はその余の手形(別紙約束手形目録記載の一三通の手形)のみは原告が現に所持している。

原告は右手形一三通を本訴請求金の支払と引き換えに返還すべく本訴において提供する(昭和四五年九月九日本件第三回口頭弁論において陳述)。

と答えた。

被告等は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

一、原告主張の請求原因事実は全部認める。

二、(代物弁済の抗弁)

昭和四五年五月九日被告等が原告主張の残債務負担を承認するに当り、原被告等間において、訴外中野義幸所有の別紙物件目録記載の不動産をもって本件債務の代物弁済に供する旨の契約が成立し、これにより本件債務は消滅した。そして原告は登記済権利証及び委任状の交付を受けて、右代物弁済の履行は完了したものである。

三、(同時履行の抗弁)

被告中野次生は本件取引上の代金債務の支払のため別紙約束手形目録記載の約束手形一三通及び左記約束手形二通を振出して原告に交付したが、同目録記載の手形一三通は不渡りとなり左記手形二通についてはその手形金額計一〇〇万円を原告に支払い済みである。

約束手形二通(内容共通)

金    額 金五〇万円

満    期 昭和四五年一月二〇日

振 出 日  昭和四四年一二月三〇日

支払地振出地 宗像郡宗像町

支払場所   遠賀信用金庫宗像支店

受 取 人  原告

よって前記代物弁済の抗弁が認められないならば、被告等は本件債務の履行を右各手形一五通の返還と同時になすべく、同時履行の抗弁を提出する。

と述べた。

証拠≪省略≫

理由

一、原告主張の請求原因事実は、全部当事者間に争いがない。

二、被告等抗弁に係る代物弁済については、昭和四五年五月六日頃被告次生より原告に対し、被告等主張の代物弁済をしたい旨の申入れがなされたことは原告の認めるところであるが、右代物弁済の約束が成立したこと及びそれが履行された事実については、これを認めるに足りる証拠はない。

もっとも、≪証拠省略≫によれば、右代物弁済の申入れに関して同月七日頃原告が該土地の登記済権利証の交付を受けたことが認められるけれども、≪証拠省略≫によると、原告は右代物弁済申入れの諾否を検討するため右権利証を預ったもので、これとともに該土地の固定資産評価証明書交付申請用及び該土地附近の字図謄写申請用の各代理委任状の交付を受け、現地を見分し、かつ宗像町の固定資産評価額(金四万九、七一四円)を調査の結果、原告は右代物弁済の申入れには応じなかったことが認められるから、右権利証交付の事実は、これをもって代物弁済契約の成立を認める資料となすに足りない。

三、被告等主張の同時履行の抗弁に係る各約束手形振出交付の事実及び右手形一五通のうちの別紙約束手形目録記載の一三通の手形が不渡りとなり、他のいずれも金額五〇万円の手形二通については各手形金が支払済みであることは、いずれも当事者間に争いがない。

四、≪証拠省略≫によると、右各金額五〇万円の手形二通の手形金計金一〇〇万円の支払は、手形交換所における交換決済によることなく、満期後の昭和四五年一月二八日金九八万円、同年二月一八日残金二万円の二回にわたり被告次生より原告に直接現金を支払う方法でなされ、右二回の支払の都度右各手形は一通宛同被告に返還されたことを認めることができ、同被告本人尋問結果中、右の点に関する供述は、それ自体あいまい不確実であって、右証言に照し措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

従って、右各金額五〇万円の手形二通に関する限り被告等主張の同時履行の抗弁はすでに理由がない。

五、その他の別紙約束手形目録記載の約束手形一三通については原告がこれを現に所持していることは原告の認めるところであり、これが本件商品代金債務の支払のために振出交付されたものである以上、右原因債務を先給付義務とする合意の存在等特段の事情あることの主張立証のない本件においては、被告等は本件商品代金債務及びその保証債務の履行につき原告の右各手形の返還義務の履行と引き換えになすべく同時履行の抗弁権を有するものというべきである。

もっとも、右手形一三通の手形金額の合計は金三〇七万円であって本件商品代金債務額金一九九万七、八二〇円を上回るものであるから、少くともその差額金一〇七万二、一八〇円に相当する原因債務はすでに消滅しているものということができ、従って、右一三通の手形のうち満期の早く到来した順に手形金額を累計して右差額金に達するまでの範囲内にある同目録記載番号1ないし4の各手形(手形金合計一〇六万円)については、すでにその原因債務は履行済みとなり、被告次生は、同時履行を求めることなく直ちに右手形四通の返還を請求することも可能である。

しかしながら、商品売買の継続的取引における代金債務の支払のために逐次右各手形一三通が振り出されたもので、各手形毎にこれに対応する原因債務部分を分別特定することができない場合である本件においては、被告次生において直ちに返還を求め得る右四通の手形についても他の九通の手形と併せて原告のその返還義務との同時履行の抗弁を主張し得るものと解するのが相当である。(もっとも、現実の同時履行の方法としては、原告が本件商品代金債権金一九九万七、八二〇円の支払を分割して受ける場合には次のようにするものと解することができる。すなわち、前記原因債権消滅金額一〇七万二、一八〇円より右四通の手形金額一〇六万円を差引いた金額一万二、一八〇円は、法定充当の規定を類推して次に早く満期の到来した同目録記載番号5ないし10の各手形金にその各金額に応じ按分して充当されたものと解すべく、原告は右番号5ないし10の各手形のうちいずれか一通を返還すべく提供することにより、当該手形の右充当後の手形金残額に対応する同額の残代金内金額の支払を請求し得るものであり、また、同目録記載番号11ないし13の各手形のうちいずれか一通を返還すべく提供することにより、当該手形金額に対応する同額の残代金内金額の支払を請求し得るものであるが、そのいずれの場合においても同時に常に原告は同目録番号1ないし4の前記四通の手形を返還すべく提供することを要するものと解すべきである。)

六、原告が昭和四五年九月九日本件第三回口頭弁論期日に、本件代金債務の支払受領と引き換えに右手形一三通を返還すべき旨の口頭の提供をなしたことは本件訴訟上明らかであるが、現実の提供でない右口頭の提供により被告は右手形返還との同時履行の抗弁権を失うものでないことは言うまでもない。

七、そうすれば、別紙約束手形目録記載の一三通の約束手形に限り、その返還と同時に本件残代金債務の履行をすべき旨の被告等の同時履行の抗弁は理由があり、原告主張の残代金一九九万七、八二〇円及びこれに対する最終約定弁済期後である昭和四五年五月二一日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める本訴請求は、右手形一三通の返還との引換給付(ただし、その具体的内容は第五項末段に記載のとおり)の限度において、これを正当として認容すべく、その余の請求(引換給付によらない給付請求部分)を失当として棄却すべきものとし、民訴法九二条但書、九三条一項本文、一九六条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺惺)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例